「トウジシャ」ノジダイ
2012年3月16日発売
定価:1,045円(税込み)
ISBN 978-4-334-03672-0
光文社新書
判型:新書判ソフト
「当事者」の時代
著者より
私は2009年夏、『2011年新聞・テレビ消滅』(文春新書)という本を上梓し、そのなかでマスメディアがなぜ立ち行かなくなっているのかをビジネス構造の観点から論じた。なぜビジネス的に描いたかと言えば、それまで出回っていたマスメディア論の多くが、「日本の新聞は言論が劣化している」「新聞記者の質が落ちている」といった情緒論ばかりだったことに辟易していたからである。そうした情緒論ではなく、純粋にビジネス構造の変化からマスメディアの衰退を論じようとしたのが同書だった。
本書はその続編に当たる。今回はビジネス論ではなく、ただひたすらその言論の問題を取り上げた。しかし私は巷間言われているような「新聞記者の質が落ちた」「メディアが劣化した」というような論には与しない。そんな論はしょせんは「今どきの若い者は」論の延長でしかないからだ。
そのような情緒論ではなく、今この国のメディア言論がなぜ岐路に立たされているのかを、よりロジカルに分析できないだろうか――そういう問題意識がスタート地点にあった。つまりは「劣化論」ではなく、マスメディア言論が2000年代以降の時代状況に追いつけなくなってしまっていることを、構造的に解き明かそうと考えたのである。
本書のプランは2009年ごろから考えはじめ、そして全体の構想は2011年春ごろにほぼ定まった。しかしその年の春に東日本大震災が起き、問題意識は「なぜマスメディア言論が時代に追いつけないのか」ということから大きくシフトし、「なぜ日本人社会の言論がこのような状況になってしまっているのか」という方向へと展開した。だから本書で描かれていることはマスメディア論ではなく、マスメディアもネットメディアも、さらには共同体における世間話メディアなども含めて日本人全体がつくり出しているメディア空間についての論考である。
目次
プロローグ 三つの物語
第一章 夜回りと記者会見――二重の共同体
第二章 幻想の「市民」はどこからやってきたのか
第三章 一九七〇年夏のパラダイムシフト
第四章 異邦人に憑依する
第五章 「穢れ」からの退避
第六章 総中流社会を「憑依」が支えた
終章 当事者の時代に
著者紹介
佐々木俊尚(ささきとしなお)
1961年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経てフリージャーナリスト。『仕事するのにオフィスはいらない』(光文社新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『2011年新聞・テレビ消滅』『決闘ネット「光の道」革命』(孫正義との共著、以上、文春新書)など著書多数。総務省情報通信白書編集委員。作家・ジャーナリスト。